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身近な話題から勝ち方の原理原則を考えるコラム
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■ランチェスターで斬る〜柔よく剛を制す〜■■■
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▼体格差に勝った日本▼
最も期待していた井上康生こそ負けましたが、男女合わせて14階級中、金メダル8個、銀メダル2個と過去最高の結果を残した日本柔道。
金メダル獲得率57%、メダル獲得率71%と、ランチェスター的には、もうこれ以上は勝たないほうがよいところまで勝ったのです。
アッパレ!
テレビを見ていて感じたのは、日本選手は背が低いのに、よく勝った、ということです。
読者様もテレビ観戦で気づいたと思いますが、身長差10cmは当たり前。20cm差の対戦も、よくありました。格闘技が好きな方には常識的なことですが、この身長差というものは、体重差と同じくらい重要な要素なのです。
身長差というよりも、手の長さの差と言った方がより正確です。
人間は背の高さと手の長さは比例するから同じことなのですが。
ボクシングでいうリーチ、相撲でいう「懐の深さ」。
この差は、先手がとれる、相手より有利に組める、という意味において勝敗に決定的な影響を与えるのです。
ミサイルの射程距離に匹敵する差なのです。
よく奥襟(柔道着の首の後ろ)をつかまれて動きを封じ込められていたでしょう。
あれです。
手が長いと先に奥襟がつかめ、自分に有利な体制を組みやすいのです。
相手のパワーを殺いで、自分のパワーを出せる形にしやすいからです。
どれくらい不利だったのか。主なメダリストの身長は、谷亮子146cm、谷本歩実(63k級・金)158cm、内柴正人(66k級・金)160cm、泉浩(90k級・銀)172cmなど、それぞれの階級の出場選手中、下から何番目という背の低さです。
このハンデを克服して彼らは勝ったのです。この勝因は柔道の基本理念である
「柔よく剛を制す」にあったと私は思います。
▼柔よく剛を制す▼
この言葉は「小よく大を制す」ともいい、本誌のテーマ「小が大に勝つ」と同じように使われています。
ですが、厳密にいうともっと具体的な勝ち方の原則を語っているものなのです。
●「柔よく剛を制す」とは、相手の力を利用して相手を倒すという意味です。
そうすれば、小さな者でも大きな者を倒すことができるというスキルなのです。
「押さば引け、引かば押せ」といいます。
相手が押してきたら押してきた力を利用して引き倒す。相手が引いてきたら引く力を利用して押し倒す。
これが「柔よく剛を制す」という意味であり、柔道が柔道と呼ばれるゆえんなのです。
女子72k超級(最重量級)の塚田真希の逆転勝ちは、まさにこれでしたね。
ところが、柔道はオリンピックの種目になってから体力と筋力の勝負になっておりました。
40年前の東京五輪で神永がヘーシンクに負けたことが、その流れを作ったのではないでしょうか。
また、ルールもポイント重視となり、レスリングのように攻めまくって細かくポイントを稼ぐようなスタイルが中心となったのです。
私は日本古来の伝統武道「柔道」と世界的なスポーツ「JUDO」は別物で、柔道ならぬ「剛道」ではないかと思います。
これまでオリンピックでやっていたのは柔道ではなく、JUDO、剛道。
その決定的な出来事がシドニー五輪の100k超級決勝の篠原信一・ドイエ戦における「世紀の誤審」だったと私は思います。
あれは、ドイエが掛けた技、パワーを利用して篠原が「内股透かし」という技で切り返し、完全に一本をとっています。
あれが、柔道ならば。
そんな大事件があったシドニー後、日本柔道界は、アテネに向けてどうしたのか。
私は、こう思います…
●「アテネではJUDOではなく、柔道をやろう」と決めたのではないでしょうか。
それこそが、柔道日本の復活であり、篠原のくやしさにむくいる道でもあります。
何よりも、身長で劣り、身体能力にも優れない日本選手が勝つには、パワー殺法ではなく、相手の力を利用した柔道本来の戦い方しか、なかったのではないでしょうか。
男子100k超級(最重量級)としては小柄な鈴木桂治や、谷本、内柴、泉らメダルを期待されていなかった小柄な選手が金や銀をとれた理由は、そこにあったと私は思います。
▼スケール・デメリット▼
では、いつものごとく「柔よく剛を制す」をビジネスに置き換えて考えてみましょう。
相手の力を利用して相手を倒す、ということがビジネスおいて置き換えられるでしょうか?
私は「スケール・デメリット」という言葉が浮かんできます。
スケール・メリットはよく使う言葉ですね。量が多いとコストを下げることができる。
全国区、また国際規模を活かした販売や調達など。ではスケールのデメリットとは?
既に寡占的な市場や強大なチャネルをもっている強者が、強大であるがゆえに新市場や新チャネルに乗り遅れることが往々にしてあるのです。
たとえば、カラオケの第一興商は、かつてカラオケのパッケージソフト市場を寡占しておりました。
そこにパッケージではなく、通信でソフトを送る通信カラオケが登場しました。
元々ミシンや編み機メーカーであったブラザー工業の子会社エクシング社などが参入してきたのです。
第一興商は門外漢の動きを、しばらくはお手並み拝見、とばかりに様子見しておりました。
通信カラオケが定着するのかどうか見極めていたのでしょう。
それと、既存の強大な市場やチャネルが崩れてしまうようなことに易々と乗れないという事情があったと思います。
そうこうしているうちに通信カラオケは定着しはじめ、パッケージから次々と切り替わっていきました。
第一興商は、大慌てでシステムを開発し、先発企業に遅れること3年で市場参入を果たします。
市場シェア1位奪還するまで、そこからまた数年かかったのです。
同業界でやっとかつての地位であるダントツの1位(=No.1)に回復したのは、確か昨年のことだと思います。
この間、王者・第一興商は相当苦しんだものと私は思います。
エクシング社は逆転されはしましたが、2位としてしたたかに稼いでいる上に、着メロ、着ウタなどのコンテンツビジネスへと事業領域を拡大し、業界内での存在感を確保しています。
つまり、新たな市場やチャネルの登場時には、強者は自らの強大なスケールが邪魔し、後手に回ってしまうのです。弱者逆転の大チャンスなのです。
80年代から90年代前半にかけて、家電業界においてソニーやシャープが松下、東芝、日立の御三家を、ビール業界においてはアサヒがキリンを逆転しました。
これは家電量販店の登場や酒販法改正によりスーパーでもビールが売れるようになった時、強者は強大な流通網が足かせになって、新チャネルへの取り組みが一歩遅れたことが原因に数えらます。
★なお、チャネルの差別化につきましては、金曜日号の講座で取り上げます。
▼まとめ▼
相手の力を利用して相手を倒す「柔よく剛を制す戦略」とは変化に対する対応スピードであり、弱者あるいは新規参入者の逆転の千載一遇のチャンスでもあるのです。
「柔」とは柔軟であり、融通無碍(ゆうづうむげ)、臨機応変です。
●あなたの業界では、業界の勢力図を塗り替えるような地殻変動の兆しを感じませんか?そして、それへの対応のスピードには自信がありますか?
●あなたが強者の場合、スケール・デメリットを感じることはありませんか?致命傷にならないための手はうってありますか?
投稿者 戦国マーケティング : 2004年8月24日